大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和51年(行ウ)23号 判決 1984年4月25日

兵庫県小野市西本町四六七番地

原告

蓬莱殖産株式会社

(旧商号小野開発株式会社)

右代表者代表取締役

蓬莱五一郎

右訴訟代理人弁護士

加藤正次

吉川正昭

岡本正治

同県加東郡社町社字若ケ谷南之上五一-三

第二八号事件被告

社税務署長

東京都千代田区霞ケ関三丁目一番一号

(右送達場所大阪市東区大手前之町大阪国税不服審判所)

第二三号事件被告

国税不服審判所長

被告両名指定代理人

長野益三

松本捷一

大西富郎

第二八号事件被告指定代理人

木澤勲

小幡博文

第二三号事件被告指定代理人

笹本雄三

山中忠男

主文

1  原告の第二八号事件主位的請求の訴えを却下し、同予備的請求を棄却する。

2  原告の第二三号事件の訴えを却下する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(第二八号事件)

1 主位的請求

被告社税務署長が原告に対して昭和五〇年二月二八日付けでした、原告の昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日までの事業年度分法人税の更正処分並びに重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分(但し、更正処分及び重加算税賦課決定処分は、いずれも昭和五一年六月二六日付け裁決により取り消された部分を除く。)をいずれも取り消す。

2 予備的請求

被告社税務署長が原告に対して昭和五一年八月三一日付けでした、原告の昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日までの事業年度分法人税の再更正処分並びに重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

3 訴訟費用は被告社税務署長の負担とする。

(第二三号事件)

1 被告国税不服審判所長が原告に対して昭和五二年五月一三日付けでした法人税再更正処分に対する審査請求却下の裁決を取り消す。

2 訴訟費用は被告国税不服審判所長の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(第二八号事件)

1 本案前の答弁

(一) 本件訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2 本案に対する答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

(第二三号事件)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(第二八号事件)

1 本件各処分等に至る経緯について

(一) 原告は、宅地建物取引業を営む株式会社であって、その決算期は、毎年三月一日から翌年二月末日までの年一期である。

(二) 原告は、昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日までの事業年度(以下、「第八期」という。)における法人税につき、法定期限後の同年七月一三日に被告社税務署長(以下、「被告税務署長」という。)に対し、別紙(一)の確定申告欄記載のとおり確定申告をしたところ、同被告は、昭和五〇年二月二八日付けで同表更正・決定欄記載のとおりの更正処分(以下、「本件更正処分」という。)及び重加算税賦課決定処分をした。

(三) そこで、原告は、これらの処分に対して同表異議申立欄記載のとおり異議申立てをしたところ、被告税務署長は、同年七月二九日付けで右異議申立てを棄却した。原告は、右決定を不服として更に同年八月二九日付けで同表審査請求欄記載のとおり、被告国税不服審判所長(以下、「被告審判所長」という。)に対して審査請求をしたところ、同被告は、昭和五一年六月二五日付けで同表裁決欄記載のとおり、前記重加算税賦課決定処分の一部を取り消し、それに代えて過少申告加算税を賦課する旨の裁決をした(以下、右裁決による取消し、変更をされたのちの重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分をそれぞれ、「本件重加算税賦課決定処分」及び「本件過少申告加算税賦課決定処分」という。そして、これらの各処分を合わせて「本件各賦課決定処分」という。更に、同処分と本件更正処分とを合わせて「本件第一次処分」という。)。

(四) その後、被告税務署長は、同年八月三一日付けで同表再更正欄記載のとおりの更正処分(以下、「本件再更正処分」という。)並びに重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、本件再更正処分とこれらの各賦課決定処分とを合わせて「本件第二次処分」という。更に、本件第一次処分と同第二次処分とを合わせて「本件各処分」という。)をした。

2 本件各処分の違法

しかしながら、次に述べるように本件各処分はいずれも違法である。

(一) 本件第一次処分について

(1) 本件更正処分について

(イ) 坂下からの仲介手数料について被告税務署長は、昭和四八年四月二六日に訴外坂下滋(以下、「坂下」という。)が訴外岐阜プラスチック株式会社(以下、「岐阜プラスチック」という。)との土地売買について、原告に対して仲介手数料五〇〇万円を支払ったものと認め、右金員を原告の益金に算入した。

しかしながら、右金員は実際には、坂下から訴外松浦芳助(以下、「松浦」という。)に支払われたものであるから、原告の所得を構成しない。

(ロ) 幸栄産業からの五〇〇万円について原告は、小野市久保木町において行った宅地造成事業(以下、「本件宅地造成事業」という。)に関し、訴外幸栄産業株式会社(以下、「幸栄産業」という。)から受け取った一〇〇〇万円については、第八期当時、右事業が完成していなかったことから、企業会計原則第二損益計算書原則三B(以下、「原則三B」という。)に基づき、このうち五〇〇万円を同期の益金として、残る五〇〇万円は仮受金としてそれぞれ経由し、仮受金五〇〇万円は、同期の益金に算入しなかった。

ところが、被告税務署長は、原告の右経理を否認し、一〇〇〇万円全額を同期の益金に算入した。

(ハ) このように、本件更正処分は、その前提となる事実を誤認した結果、原告の所得を過大に計上したものであるから違法である。

(2) 本件重加算税賦課決定処分について

(イ) 被告税務署長は、原告が右(1)の(イ)の手数料を受け取りながら、これを松浦の所得であるかのように仮装又は隠ぺいしたとして、本件重加算税賦課決定処分をした。

(ロ) しかしながら、前述のとおり、右手数料は松浦に支払われたものであるから、原告が仮装隠ぺいした事実はない。

(ハ) よって、同処分は、その前提となる事実を誤認したものであるから、違法である。

(3) 本件過少申告加算税賦課決定処分について

前述のとおり、本件更正処分が違法である以上、本件過少申告加算税賦課決定処分も違法である。

(4) よって、本件第一次処分は、いずれも違法である。

(二) 本件第二次処分について

(1) 本件再更正処分について

(イ) 本件再更正処分は、本件更正処分による法人税本税額三六八万二四〇〇円を「既に納付の確定した本税額」としたうえ、これに五万四七〇〇円の本税額を追加増額したものにすぎないから、これらの処分は、その実質において同一の処分である。

(ロ) そして、本件更正処分が違法であることは、前述のとおりである。

(ハ) よって、本件再更正処分も違法である。

(2) 本件第二次処分にかかる重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分について

(イ) 本件第二次処分にかかる重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分は、それぞれ本件重加算税賦課決定処分及び本件過少申告加算税賦課決定処分と同額である。

(ロ) そして、同処分が違法であることは、前述のとおりである。

(ハ) よって、本件第一次処分にかかる重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分は、いずれも違法である。

(3) 従って、本件第二次処分は、いずれも違法である。

3 以上のとおりであるから、原告は、主位的には本件第一次処分の、予備的には本件第二次処分の取消しを求める。

(第二三号事件)

1 本件裁決に至る経緯について

(一) 第二八号事件請求原因第1項と同じである。

(二) 原告は、本件第二次処分を不服として、昭和五二年一月二四日付けで被告税務署長に対して異議申立て(以下、「本件異議申立て」という。)をしたところ、同被告は、同年三月一七日付けで原告の右申立てを却下する旨の決定をした。

(三) そこで、原告は、これを不服として、同年四月四日付けで被告審判所長に対して審査請求(以下、「本件審査請求」という。)をしたところ、同被告は、右申立てが法定期間を徒過してされたものであることを理由に、同年五月一三日付けで右審査請求を却下する旨の裁決(以下、「本件裁決」という。)をした。

2 本件裁決の違法

しかしながら、本件裁決には、次の違法がある。

(一) 申立期間について

(1) 本件異議申立てが法定の申立て期限を徒過するに至ったのは、原告代表者である訴外蓬莱五一郎(以下、「五一郎」という。)が社税務署の担当課長である訴外槇本哲夫統括国税調査官(以下、「槇本統括官」という。)から誤った教示(以下、「本件教示」という。)を受けたことによるものである。

(2) よって、本件では、出訴期間を遵守することができなかったことについて国税通則法(以下、「通則法」という。)七七条三項所定の「やむを得ない理由」があるというべきである。

(3) ところが、本件裁決は、これを認めなかった。

(4) 従って、本件裁決は、その前提となる事実を誤認した結果、同法の解釈を誤ったものであり、違法である。

(二) 審理をつくさなかった違法について

(1) 原告は、本件審査請求において、本件教示の存在を主張した。

(2) このような場合、被告審判所長としては、右事実関係について直接槇本統括官らの担当者を取り調べる等適正な証拠調べ、事実調査をすべきであった。

(3) ところが、被告審判所長は、これらの調査をしなかった。

(4) よって、本件裁決には、審理不尽の違法がある。

3 よって、原告は、本件裁決の取消しを求める。

二  本案前の答弁の理由(第二八号事件について)

1  主位的請求について

(一) 本件第二次処分に至る経緯

原告は、昭和五〇年八月二九日、被告審判所長に対し、原告の昭和四七年三月一日から昭和四八年二月二八日までの事業年度(以下「第七期」という。)及び第八期分の各更正処分等の取消しを求める審査請求をしたところ、同被告は、昭和五一年六月二六日付けで第七期分につき、更正処分の全部を取り消すとの裁決をした。

この結果、第八期分については、本件第一次処分の際に損金算入を認めていた第七期分事業税引当分二〇万六〇〇〇円の損金算入を認める必要がなくなったので、被告税務署長は、同年八月三一日付けで、本件更正処分の所得に右金額を加算して本件第二次処分をした。

(二) ところで、増額再更正処分は、当初の更正処分をそのままにして脱漏分だけを追加するものではなく、課税庁が再調査をして課税標準等を新たに定める別個独立の行政処分であるから、更正処分がされたのちに再更正処分がされた場合には、当初の更正処分は、当然に消滅するものである。

(三) よって、被告税務署長が本件第二次処分をしたことによって同第一次処分は消滅したものと解すべきであるから、本件訴えは、その対象を欠く不適法な訴えとして、却下を免れない。

2  予備的請求について

(一) 出訴期間について

(1) 原告の右訴えは、行政事件訴訟法(以下、「行訴法」という。)一九条所定の訴えの追加的併合であるが、同条に基づいて取消訴訟に関連請求に係る訴えを併合して提起するには、その基礎となる取消訴訟が適法に訴訟係属しているものであることを要すると解すべきである。

(2) ところが、原告が本件第一次処分の取消しを求める訴えを提起したのは、昭和五一年一〇月二九日であるところ、その取消しの対象である処分は、同年八月三一日付けで被告がした本件第二次処分によって既に消滅していた。

このように、本件第一次分の取消しの訴えは、提起の当初の時点において、既に不適法であった。

(3) よって、原告が本件第一次処分の取消しの訴えに同第二次処分の取消しの訴えを追加しても、右追加にかかる訴えは、行訴法一九条所定の併合要件を具備するものではなく、あくまでも、独立の訴えとみるほかないから、本件予備的請求自体についても、出訴期間を遵守していることを要するものと解すべきである。

(4) そこで、この点について検討するのに、同法一四条によれば、行政庁の処分の取消しを求める訴えは、処分又は裁決があったことを知った日から三か月以内に提起しなければならないと規定されているところ、原告は、本件第二次処分のあったことを同処分の送達を受けた昭和五一年九月一日に知っているにもかかわらず、昭和五二年一月二四日に初めて予備的請求を追加したものであるから、本件第二次処分の取消しを求める本件予備的請求は、同法所定の出訴期間を経過したのちに提起されたものであることが明らかである。

(5) 従って、本件予備的請求は、出訴期間を遵守しない不適法な訴えである。

(二) 不服申立て前置について

(1) 通則法は、国税に関する法律に基づく処分の取消しを求める訴えについて、これらの処分に対する不服申立てができる場合には、原則として、これを先に経たうえでなければ、右訴えを提起できないという不服申立て前置主義を採用している(同法一一五条一項)。

ところで、同法一一五条一項二号は、右不服申立て前置主義の例外として、更正処分の取消しの訴えが係属している間に再更正処分がされた場合に、同処分の取消しの訴えを提起しょうとするときは、審査前置を要しないと定めているところ、本件では、本件第二次処分は、本件第一次処分の取消しの訴えを提起する前にされたものであって、その訴訟係属中にされたものではないから、予備的請求にかかる本件第二次処分の取消しの訴えを求めるためには、審査前置が必要であった。

(2) そして、被告は、本件第二次処分をした際、その更正通知書において、「この処分に不服があるときはこの通知を受けた日の翌日から起算して二月以内に社税務署長に対して異議申立てをすることができます。」と教示している。

(3) ところが、原告は、同処分に対する争訟の手続を誤り本件第二次処分に対し、二か月の法定期間を徒過したのちに本件審査請求をしたのであり、この点について、同法七七条三項に規定する天災その他やむを得ない理由は認められない。

(4) よって、原告の予備的請求は、適法な審査裁決を前置していないから、不適法である。

(三) 以上のとおりであるから、原告の本件予備的訴えは、いずれも不適法である。

3  よって、原告の本件各訴えは、いずれも却下を免れない。

三  本案前の答弁の理由に対する認否及び本案前の答弁の理由に対する原告の反論

1  本案前の答弁の理由に対する認否

(一) 本案前の答弁の理由第1項(一)の事実は認め、同項(二)及び(三)の各主張は争う。

(二) 本案前の答弁の理由第2項について

(1) 同項(一)について

(イ) 同(1)ないし(3)の各主張は争う。

(ロ) 同(4)のうち、行訴法一四条にそのような規定のあること、原告が本件第一次処分のあったことを昭和五一年九月一日に知っていること及び原告が昭和五二年一月二四日に本件予備的請求を追加したことは認め、その余の主張は争う。

(ハ) 同(5)の主張は争う。

(2) 同項(二)について

(イ) 同(1)のうち、通則法一一五条一項二号にそのような規定のあること及び原告において本件第一次処分の取消しの訴えを提起する前に同第二次処分がされたことは認め、その余は争う。

(ロ) 同(2)の事実は否認する。

(ハ) 同(3)のうち、本件審査請求が法定の不服申立期間を経過したのちにされたものであることは認め、その余の主張は争う。

(ニ) 同(4)の主張は争う。

(3) 同項(三)の主張は争う。

(三) 本案前の答弁の理由第3項の主張は争う。

2  本案前の答弁の理由に対する原告の反論

(一) 主位的請求について

(1) 更正処分ののちに再更正処分がされた場合に、通則法が、同処分によって当初の更正処分が消滅するとする吸収説をとっているか両処分が併存するとする段階説のいずれをとっているのかは、その実定法規の規定内容に即して決しなければならないが、同法二九条一、三項、七三条、九〇条、一〇四条三項、一一五条一項三号等の諸規定からみれば、更正処分は、その後の再更正処分によって吸収、消滅するものではなく、むしろ、同処分後も形式上別個の処分として存続するものと解すべきである。

(2) ところで、本件第二次処分は、原告において、被告審判所長に対し、第七期及び第八期分の法人税の更正処分並びに重加算税又は過少申告加算税の各賦課決定処分の取消しを求めて審査請求をしていたところ、同被告が昭和五一年六月二六日付けで第七期分の更正処分等を取り消したので、右取消しに伴う措置として行われたものである。

すなわち、本件第二次処分は、被告税務署長が新たに原告の脱漏所得を発見したというような実質的な理由に基づいたものではなく、右の第七期分の取消しにより、事業所得二〇万六〇〇〇円が第八期に繰り越されることとなった結果、同期の税額が五万四七〇〇円増加したためにされたものであり、単なる会計処理上の問題にすぎない。

(3) このように、本件第二次処分は、本件更正処分の前提である事業所得の認定そのものを何ら動かしておらず、本件第一次処分との間に実質的同一性を有しているから、本件では、同処分につき、直接その適否を争うことが認められるべきである。

(4) よって、原告の主位的請求は適法であるから、これを不適法とする被告の主張は、理由がない。

(二) 予備的請求について

(1) 前述したように、本件第一次処分と同第二次処分とは実質的同一性を有するから、これら各処分の取消しを求める各訴え相互間にも、実質的同一性が認められるべきである。

よって、本件では、行訴法二〇条等の趣旨を類推し、本件第二次処分の取消しの訴えは、同第一次処分の取消しの訴えを提起したときに提起されたものとみて、出訴期間が遵守されたものと解すべきである。

(2) また、原告が本件予備的請求を追加した事情は、次のとおりである。

(イ) 原告は、昭和五一年一〇月二九日付けで本件第一次処分の取消しを求める行政訴訟を神戸地方裁判所(以下、「当庁」という。)に提起した(本件主位的請求)が、被告は、これより先の同年八月三一日付けで本件第二次処分をし、同処分は、同年九月一日に原告に送達された。

(ロ) ところで、同処分に対する異議申立て期限は、同年一一月一日である(通則法七七条一項参照)ところ、五一郎は、同年一〇月三〇日、訴外西尾茂己税理士(以下、「西尾税理士」という。)を通じて、原告訴訟代理人から念のために同処分に対しても異議申立てをしておくようにとの指示連絡を受けたので、同日、右異議申立てをするために社税務署を訪れ、応待に出た槇本統括官に対し、異議申立用紙の交付を要求した。

ところが、同統括官は、五一郎に対し、「本件第二次処分は、裁決によって第七期分の法人税更正処分が全部取り消されたため、同期分の未納事業税二〇万六〇〇〇円が会計処理上自動的に第八期の所得に加算され、その結果、同期の法人税が五万四七〇〇円増額されたにすぎないから、本件第一次処分について出訴している以上、本件第二次処分について改めて異議申立てをする必要はない。」旨を教示(本件教示)をした。そのため、五一郎は、右教示を信じ、原告訴訟代理人にもその旨を連絡しないまま、本件第二次処分につき、異議の申立てをしなかった。

(ハ) ところが、本件第一回口頭弁論期日(昭和五二年一月一七日)において、被告指定代理人は、「本件第二次処分がされた以上、同第一次処分は消滅し、取消しを求める対象を欠くに至ったから、本件訴えは不適法である。」旨答弁した。

(ニ) そのため、原告は、やむなく昭和五二年一月二四日に本件第二次処分の取消しを求める本件予備的請求及び同処分に対する本件異議申立てをしたところ、被告税務署長は、同年三月一七日付けで本件決定をした。そこで、原告は、これを不服として、同年四月四日付けで被告審判所長に対し、本件審査請求をしたが、同被告は、同年五月一三日付けで本件裁決をし、同裁決書は、同年六月二日ころ原告に到着した。

(3) このような事情のもとでは、本件予備的請求が出訴期間を経過したのちに提起されたことにつき、行訴法一四条一、二項、七条、民事訴訟法(以下、「民訴法」という。)一五九条一項所定の「当事者(略)ノ責ニ帰スヘカラサル事由」(以下、「責に帰すべからざる事由」という。)が認められるとともに、通則法一一五条一項二、三号の事由が存在するから、不服申立て前置主義にも反しないというべきである。

よって、原告の本件予備的請求も適法である。

(三) 以上のとおりであるから、本件各訴えが不適法であるとする被告の本案前の答弁の理由は、いずれも失当である。

四  本案前の答弁の理由に対する原告の反論に対する認否

1  本案前の答弁の理由に対する原告の反論第(一)項のうち、同項(2)前段の事実は認め、その余の主張は争う。

2  本案前の答弁の理由に対する原告の反論第(二)項について

(一) 同項(1)の主張は争う。

(二) 同項(2)について

(1) 同(イ)の事実は認める。

(2) 同(ロ)のうち、異議申立て期限がそのとおりであること、五一郎が昭和五一年一〇月三〇日に社税務署を訪れたこと、槇本統括官が同人に対し、本件再更正処分の内容について説明をしたこと及び原告が異議申立てをしなかったことは認め、その余の事実は否認する。

(3) 同(ニ)の事実は認める。

(三) 同項(3)の主張は争う。

3  本案前の答弁の理由に対する原告の反論第(三)項の主張は争う。

五  請求原因に対する認否

(第二八号事件)

1 請求原因第1項は認める。

2 請求原因第2項について

(一) 同項冒頭部分の主張は争う。

(二) 同項(一)について

(1) 同(1)について

(イ) 同(イ)前段の事実は認め、同後段の事実は否認する。

(ロ) 同(ロ)前段のうち、原告が五〇〇万円を益金に算入しなかったことは認め、その余は争う。同後段の事実は認める。

(ハ) 同(ハ)の主張は争う。

(2) 同(2)の(イ)の事実は認める。同(ロ)の事実は否認する。同(ハ)の主張は争う。

(3) 同(3)の主張は争う。

(三) 同項(二)について

(1) 同(1)について

(イ) 同(イ)のうち、本件第一次処分と同第二次処分の本税額の差が原告主張のとおりであることは認め、その余は争う。

(ロ) 同(ロ)及び(ハ)の各主張は争う。

(2) 同(2)の(イ)の事実は認める。同(ロ)及び(ハ)の各主張は争う。

(3) 同(3)の主張は争う。

(第二三号事件)

1 請求原因第1項の事実は認める。

2 請求原因第2項について

(一) 同項冒頭部分の主張は争う。

(二) 同項(一)の(1)は否認する。同(2)の主張は争う。同(3)は認める。同(4)の主張は争う。

(三) 同項(二)の(1)は認める。同(2)の主張は争う。同(3)のうち、被告審判所長が国税審査官をして槇本統括官を直接取り調べさせなかったことは認めるが、適正な調査をしなかったとの主張は争う。同(4)の主張は争う。

六  被告らの主張

(第二八号事件)

1 本件課税の経緯について

(一) 原告は、不動産の売買及び仲介等を業とする株式会社であるが、第八期の法人税の確定申告書を法定期限後の昭和四九年七月一三日に被告税務署長に提出した。

(二) 被告税務署長は、原告の提出した確定申告書に記載された課税標準等がその調査したところと異なっていたので、本件第一次及び第二次の各処分をした。

2 本件第一次処分の適法性

(一) 本件更正処分について

原告の第八期分の課税所得金額は、次のとおりである。

(1) 収入手数料等 一〇〇〇万円

(イ) 仲介手数料 五〇〇万円

原告は、売主坂下と買主岐阜プラスチックとの間で昭和四八年四月二三日にされた小野市天神町字向山八〇番八ほか一筆の山林(以下、「本件山林」という。)の売買の仲介をしたことにつき、同月二六日に坂下から手数料として五〇〇万円の支払いを受けた。

なお、右五〇〇万円のうち三〇〇万円は、同月二八日に小野市農業協同粗合(以下、「小野市農協」という。)小野支所の原告の当座預金口座に入金(但し、原告の帳簿には記帳されていない。)されており、残りの二〇〇万円は、同年五月七日に三木信用金庫小野支店(現在、日新信用金庫小野支店。以下、「三木信金小野支店」という。)の五一郎名義の普通預金口座に入金されている。

(ロ) 仮受金五〇〇万円の益金算入

<1> 原告は、幸栄産業から昭和四八年八月二〇日に受け取った一〇〇〇万円(額面五〇〇万円の約束手形二通、支払期日同年九月三〇日と同年一〇月三一日)のうち、五〇〇万円を受取手数料として第八期分の益金に計上したものの、残りの五〇〇万円は、仮受金として経理し、同期分の益金に計上しなかった。

<2> しかしながら、右一〇〇〇万円は、次の事情により、幸栄産業が原告に支払ったものである。

<イ> 本件宅地造成事業は、原告が訴外田中とし子ら対象土地の所有者(以下、「田中ら」という。)との間で土地の売買契約を締結し、手付金を支払うとともに、住宅地造成事業に関する法律(昭和三九年法律第一六〇号、以下「宅造法」という。)四条、都市計画法附則(昭和四三年法律第一〇〇号)二項二号、一〇項、都市計画法施行法(同年法律第一〇一号)七条に基づく兵庫県知事の認可(以下、宅造法の適用される場合には、単に宅造法の条文のみを掲げる。)を昭和四五年一一月一〇日付けで受けたものである。

ところが、原告は、資金繰りの都合上、本件宅地造成事業を継続することが困難となったが、もし、事業を中止すれば、原告において田中らに支払った金員がいわゆる手付流れとなり、多大の損害を被るおそれが生じた。

そこで、原告は、幸栄産業に対し、本件事業を引き継いでくれるよう再三にわたって懇請した結果、同社もこれを了承し、同社が本件宅地造成事業を引き継ぐことになった。

<ロ> そして、右引継ぎののちは、幸栄産業が現実に宅地造成の工事一切を行い、原告は、単に宅地造成事業につき、兵庫県知事の認可を受けた事業主としての名義人にすぎず、また、右引継ぎを受けた幸栄産業は、原告に対して同事業を引き継ぐことに伴って金員を支払うことを考えておらず、原告もこのことを了承していた。

<ハ> ところが、幸栄産業が工事を完成させ、兵庫県知事に対して工事完了届を提出する段階に至って、原告は、工事完了届に押印することを拒み、押印と引換えに金員の支払いを要求した。そこで、幸栄産業は、原告の印がなくても工事完了届を提出できる方法はないかと研究したものの、宅造法上は開発認可を受けたものが工事完了届を提出しなければならず、また、工事完了について検査を受けなければ工事が完了しても住宅が建てられないことが判明した。

そこで、幸栄産業は、不本意ながら一〇〇〇万円を交付するのと引替えに工事完了届に押印してもらう旨の合意を原告と交わし、右合意に基づいて原告に一〇〇〇万円を交付した。

よって、右一〇〇〇万円は、宅造法に基づいて兵庫県知事に提出する工事完了届に事業主としての原告の押印が必要でなければ、原告に支払われるはずのないものであり、本件宅地造成事業において原告が提供するべき役務に対する対価とはいえない。

<3> また、仮に、原告の右押印が役務の提供の対価であるとしても、本件宅地造成事業の工事完了届への押印と兵庫県知事に対する右届の提出、宅造法に基づく同知事の検査及び検査済証の交付をもって原告の役務の提供は完了しているから、少なくとも、右検査済証の交付時点において原告の報酬としての帰属及び支払時期は確定しており、後日精算して剰余金があれば幸栄産業に返還される性質のものではないから、右一〇〇〇万円は、第八期においては仮受金ではなく、収益としての帰属及び支払時期の確定した収入であり、全額同期分の益金に算入されるべきものである。

<4> なお、原則三Bの趣旨は、あくまでも未実現収益を排除することを強調するものである。

ところが、原告の役務の提供は、前述のとおり、本件宅地造成事業を幸栄産業に引き継いだ時点で完了しており、収受した金員を仮受金としてこれを将来の益金とする繰延べ処理をしても、それに対応する将来の費用、すなわち、役務の提供は原告にはもはや残存していないのであるから、原告が一〇〇〇万円のうち五〇〇万円を第八期分、残金五〇〇万円をその翌年分の益金に計上したのは、原告の一方的な税務対策上の都合によるものというべきである。

よって、原告のした右会計処理が原則三Bに反するものであることは、明らかである。

<5> 従って、原告が幸栄産業から受領した右一〇〇〇万円は、すべて第八期分の益金に算入されるべきである。

(2) 収入利息 一五万七〇五〇円

原告は、第八期中に合計一五万七〇五〇円の収入利息を受領している。

(3) 役員賞与の損金不算入額 三〇万円

(イ) 原告は、五一郎に対し、昭和四八年九月三〇日に二〇万円、同年一二月三〇日に三〇万円をそれぞれ支給している。

(ロ) ところが、五一郎が定期の給与として支給を受けているのは、月額一〇万円である。

(ハ) よって、前記各支給額のうち、月額一〇万円を超える部分合計三〇万円は、臨時の給与であるから、法人税法三五条四項、一項所定の役員賞与であり、損金の額には算入されない。

(4) 租税公課 二万一〇〇〇円

原告は、第八期分の確定申告において、損金経理した自動車税二万一〇〇〇円を損金不算入として当期利益に加算しているが、法人税法上自動車税は、損金算入が認められるから、右二万一〇〇〇円は、損金として収入金額から控除される。

(5) 未納事業税 二〇万六〇〇〇円

被告税務署長が昭和五〇年二月二八日付けでした原告の第七期分の法人税更正処分に伴い、第八期分において、第七期分の未納事業税二〇万六〇〇〇円の引当金として同額が損金算入され、収入金額から控除される。

(6) よって、原告の課税所得金額は、一〇一七万四七五九円であり、その範囲内である一〇一二万九一四〇円の所得金額を認めた本件更正処分は適法である。

(二) 本件各賦課決定処分について

(1) 被告税務署長は、本件更正処分に際し、合わせて一〇九万三八〇〇円の重加算税賦課決定処分をしたが、昭和五一年六月二六日付けの裁決は、右処分の一部を取り消して、本件各賦課決定処分をした。

(2) 前述したように、原告は、坂下から五〇〇万円の仲介手数料を受け取ったにもかかわらず、これを帳簿に記載せずに事実を隠ぺいし、第八期分の法人税の確定申告にあたり、このように事実を隠ぺいしたところに基づいて確定申告書を提出した。

そこで、被告税務署長は、通則法六八条一項により重加算税の賦課決定処分をした。

(3) また、本件過少申告加算税賦課決定処分は、同法六五条に基づいてされたものである。

(4) よって、本件各賦課決定処分は適法である。

3 本件第二次処分の適法性

(一) 本件再更正及分について

(1) 第2項(一)の(1)ないし(4)と同じである。

(2) 同(5)で述べたとおり、損金に算入されていた原告の第七期分の未納事業税二〇万六〇〇〇円は、その後、原告の同期分の更正処分等が裁決によって取り消されたため、第八期の損金に算入されないこととなった。

(3) よって、原告の課税所得金額は、一〇三八万〇七五九円であるから、その範囲内である一〇三三万五一四〇円の所得金額を認めた本件再更正処分は適法である。

(二) 本件再更正処分にかかる各賦課決定処分について

(1) 前記第2項(二)の(1)ないし(3)と同じである。

(2) よって、これらの賦課決定処分は適法である。

4 以上のとおり、本件第一次及び第二次の各処分はいずれも適法であるから、原告の本訴請求はいずれも理由がない。

(第二三号事件)

1 本件裁決に至る経緯について

(一) 通則法七五条三項の規定によれば、異議申立てについての決定を経たのちの審査請求については、その異議申立てが法定の異議申立期間経過後にされたもの、その他適法にされていないものでないことが、要件とされている。

(二) ところで、被告税務署長が昭和五一年八月三一日付けでした本件第二次処分の通知書は、同年九月一日、原告に送達されている。

よって、原告が同処分に対して異議申立てをすることができる期間は、処分に係る通知を受けた日の翌日から起算して二か月以内(通則法七七条一項)、すなわち、同年一一月一日までであるところ、原告が異議審理庁である被告税務署長へ本件異議申立てをしたのは、右期間を徒過した昭和五二年一月二四日である。

このため、同被告は、同年三月一七日付けで、右異議申立てが法定の不服申立期間を経過したのちにされた不適法なものであることを理由に右申立てを却下し、同決定書は同日原告に送達されたが、原告はこれを不服として、被告審判所長に対し、同年四月四日付けで本件審査請求をした。

(三) そこで、被告審判所長が同請求を審理することとなったが、担当審判官から調査審理の命を受けた訴外多田芳郎国税審査官(以下、「多田審査官」という。)は、原告が審査請求書の理由欄に記載して主張する点(これは、別表(二)記載のとおりである。)について事実の存否を確認するため、同月二一日、槇本統括官に連絡した。ところが、同人が不在であったので、社税務署の異議審理事務及び審査請求関係事務の担当者である訴外平田幸男上席国税調査官に事実関係についての調査を依頼したところ、同日、本件審査請求にかかる槇本統括官の指導内容について同統括官に尋ねた結果を別表(三)記載のとおり連絡してきた。

他方、多田審査官は、同日西尾税理士から口頭の意見陳述を受け、これについても審理したが、原告が法定期間内に異議申立てをしなかったことにつき、通則法七七条三項所定のやむを得ない理由は認められなかった。

(四) よって、これらの調査結果の報告を受けた被告審判所長は、本件審査請求は同法七七条一項に違反し、不適法であると判断し、本件裁決をした。

2 従って、本件裁決は適法であり、原告の本訴請求は、理由がない。

七  被告らの主張に対する認否及び原告の反論

1  被告らの主張に対する認否

(第二八号事件)

(一) 被告らの主張第1項の事実は認める。

(二) 被告らの主張第2項について

(1) 同項(一)について

(イ) 同(1)について

<1> 同(イ)前段の事実は否認する。同後段の事実は認める。

<2> 同(ロ)について

<イ> 同<1>の事実は認める。

<ロ> 同<2>について

a 同<イ>第一段の事実は認める。同第二段の事実は否認する。同第三段のうち、幸栄産業が本件事業を引き継ぐようになったことは認め、その余の事実は否認する。

b 同<ロ>の事実は否認する。

c 同<ハ>のうち、一〇〇〇万円の交付を受けたことは認め、その余の事実は否認する。

d 同末尾部分の主張は争う。

<ハ> 同<3>ないし<5>の各主張は争う。

(ロ) 同(2)の事実は否認する。

(ハ) 同(3)の(イ)及び(ロ)の各事実は認める。同(ハ)の主張は争う。

(ニ) 同(4)及び(5)の各事実は認める。

(ホ) 同(6)の主張は争う。

(2) 同項(二)の(1)の事実は認める。同(2)のうち、原告が五〇〇万円の仲介手数料を受領した旨を帳簿及び確定申告書に記載しなかったことは認め、その余の事実は否認する。同(3)の事実は否認する。同(4)の主張は争う。

(三) 被告らの主張第3項について

(1) 同項(一)について

(イ) 同(1)に対する認否は、被告らの主張に対する認否(二)の(1)の(イ)ないし(ニ)と同じである(但し、同(二)のうち、被告らの主張第2項(一)の(5)に対する認否部分を除く。)。

(ロ) 同(2)の事実は認める。

(ハ) 同(3)の主張は争う。

(2) 同項(二)について

(イ) 同(1)に対する認否は、被告らの主張に対する認否(二)の(2)と同じである。

(ロ) 同(2)の主張は争う。

(四) 被告らの主張第4項の主張は争う。

(第二三号事件)

(一) 被告らの主張第1項について

(1) 同項(一)は認める。

(2) 同項(二)のうち、原告が不服申立期間を徒過したとの点は争い、その余の事実は認める。

(3) 同項(三)の事実は否認する。

(4) 同項(四)のうち、被告審判所長がどのような調査結果に基づいて本件裁決をしたのかは知らない。その余の事実は認める。

(二) 被告らの主張第2項の主張は争う。

2  原告の反論

(第二八号事件)

(一) 仲介手数料

(1) 本件山林の売買について

(イ) 坂下と岐阜プラスチック間の本件山林の売買(売買代金一億六六三〇万円)は、松浦と訴外塚原照義の仲介によって成立したものであり、原告は、松浦及び右塚原が宅地建物取引業の免許を有していなかったところから、松浦の要請により、仲介者の名義を貸したにすぎない。

(ロ) ところで、松浦は、本件山林の買収、造成、管理に既に一〇年以上の時間と労力とをかけてきたところから、右山林について共有者的意識を抱いており、右売買代金の半分位は自分にもらえるものと考えていた。

(ハ) ところが、坂下は、右売買の謝礼ないし分配金として、松浦に対して二八二六万円を銀行振込みで支払っただけであったので、松浦はこれを不満とし、坂下に対して右売買のために費用を要したように見せるため、五一郎に対し、坂下宛の五〇〇万円の領収書を作成することを要請した。そこで、五一郎は、これに応じ、右趣旨の領収書を作成した。

(ニ) 以上のとおりであるから、坂下から五〇〇万円の仲介手数料が原告又は松浦に支払われた事実は、そもそも存在しなかったものである。

(2) 松浦からの五〇〇万円について

五一郎は、確かに昭和四八年四月二六日ころ、松浦から五〇〇万円を受領しているが、これは、同人の小野市農協大部支所に対する借入金の返済のために預ったものである。すなわち、

(イ) 五一郎は、右五〇〇万円のうち三〇〇万円を同月二八日付けで小野市農協小野支所の原告名義の当座預金口座に入金しているが、同日中に右口座から額面二六四万二四八五円の小切手を振り出して同額の金員を引き出し、そのうち二五八万二一〇一円を松浦の同農協大部支所に対する借入金の返済(元金二〇〇万円とこれに対する利子六万七一五〇円及び元金五〇万円とこれに対する利子一万四九五一円の二口の債務)に充てている。

(ロ) ところで、松浦は、昭和四五年に原告の取締役に就任して以来、原告からは一銭の報酬も支給されていなかったにもかかわらず、原告の業務にも携り、かつ、昭和四六年三月には、自己所有のすべての不動産を原告の借入金の担保として提供するなど、原告のために多大の貢献をしてきたので、原告は、右貢献に報いるため、また、当時、同人は、前述した本件山林の売却を進めており、多額の売買代金の一部が同人にはいることも予想されていたという事情もあったので、原告は、昭和四八年一月二二日に、同人のために、同人の小野市農協大部支所に対する借入金の一部返済として一〇〇〇万円を立替弁済していた。そこで、原告は、松浦から受領した五〇〇万円の中から右立替金一〇〇万円の返済を受けた。

(ハ) なお、原告は、松浦から預った五〇〇万円から右立替金の返済分一〇〇万円及び前記松浦のための支払額二五八万二一〇一円を控除した残額一四一万七八九九円については、同年六月二七日に三木信金小野支所から引き出した一六〇万円の中から同人に精算金として返還している。

(3) 以上のとおりであるから、原告が五〇〇万円の仲介手数料を受領した事実はない。

(二) 仮受金経理について

(1) 一〇〇〇万円の性格

(イ) 原告は、昭和四五年一一月一〇日に本件宅地造成事業につき、宅造法に基づく兵庫県知事の認可を受けたが、資金の都合により、実際の造成工事等及び宅地の分譲は、すべて幸栄産業に行わせることとした。

しかし、本件宅地造成事業の施行に伴い、周辺下流地区(水利権者及び住民)の同意を求め、計画変更の認可申請をし、工事完了の届出をして、その検査を受けること及び公共施設(道路、上下水道、公園、集会所など)の小野市への引渡しなどは、原告の責任において行う必要があり、これらを行うことは、原告が幸栄産業に対して負担する役務である。

(ロ) ところで、幸栄産業は、原告が取得した前記兵庫県知事の認可に基づく事業主たる地位を利用して本件宅地造成事業を実施することになるので、工事完成後、土地分譲によって得た利益の中から原告の受けた認可及びその他の役務に対し、利益配分の形で補償をすることを約束していた。

(ハ) そこで、幸栄産業は、右約束に基づき、原告が知事の開発認可を受けたこと及び原告が提供する前記のような役務に対する報酬として、原告に一〇〇〇万円を支払ったものである。

(2) 原則三Bとの関係

(イ) 会計学的にみれば、支払時期が確定しても、直ちにその事業年度における収益として確定することにはならず、未実現収益として、その事業年度から除外される場合も少くない。そして、この原理を定めたのが原則三Bであるが、これによれば、売上高は実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限られることになる。

(ロ) ところで、本件では宅造法上の認可を受けた事業主としての原告の公法上の義務は、公共施設の引渡し完了まで残存するので、原告は、工事完了届ののちも、右引渡しが完了するまでは、公共施設の管理に伴う責任を負担し、また、公共施設の引渡しに際しては、市との交渉の当事者とならざるを得ない。

そして、幸栄産業の原告に対する前記一〇〇〇万円の報酬は、これらの役務の提供に対して支払われたものであるところ、これを受領した昭和四八年八月二〇日の時点では工事完了届、検査及び公共施設の引渡しも未了で、報酬額も未確定であったので、原告は右一〇〇〇万円を仮受金として受領した。

(ハ) その後、右一〇〇〇万円のうち五〇〇万円については、既に完了した役務に対する報酬として受領する旨の合意が成立したので、原告は、昭和四九年二月二五日に右五〇〇万円を第八期分の益金として計上した。

なお、右約定によれば、原告の報酬請求権の発生時点は公共施設引渡しの時期(なお、小野市は、分譲住宅地の計画戸数の三五パーセント完成時をもって、右引渡しの時期としている。)とされていたが、その後、原告と幸栄産業との間で残りの仮受金五〇〇万円を昭和四九年度において原告の報酬とすることの合意が成立した。そこで、原告は、これに基づいて右五〇〇万円を次年度である第九期分の収益に計上し、申告、納税を終えた。

(ニ) よって、原告の右経理は、原則三Bに合致した適法なものである。

(3) 以上のとおりであるから、五〇〇万円については、原告の第八期分の所得金額に計上すべきではない。

(三) よって、本件第一次及び第二次の各処分は、いずれも違法である。

(第二三号事件)

(一) 本件教示の違法について

(1) 原告は、本案前の答弁の理由に対する原告の反論(二)の(2)の(イ)ないし(ニ)記載のような経緯で本件審査請求をしたものである。

(2) このような場合には、本件異議申立てに際し、不服申立期間を遵守することができなかったことについて、通則法七七条三項所定のやむを得ない理由があるものというべきである。

(二) よって、右のやむを得ない理由の存在を認めず、必要な事実の取調べもしなかった本件裁決は、違法である。

八  原告の反論に対する認否及び被告らの反論

1  原告の反論に対する認否

(第二八号事件)

(一) 原告の反論第(一)項について

(1) 同項(1)の(イ)及び(ハ)の各事実は否認する。同(ロ)の事実は知らない。同(ニ)の主張は争う。

(2) 同項(2)の冒頭の事実は否認する。同(イ)のうち、四月二八日付けでそのような入金がされていることは認め、その余の事実は否認する。同(ロ)及び(ハ)の各事実は否認する。

(3) 同項(3)の主張は争う。

(二) 原告の反論第(二)項について

(1) 同項(1)の(イ)前段の事実は認め、同後段の事実は否認する。同(ロ)及び(ハ)の各事実は否認する。

(2) 同項(2)の(ロ)前段の主張は争い、同後段の事実は否認する。同(ハ)のうち、原告がその受領した一〇〇〇万円のうち五〇〇万円を第八期分の益金、残りの五〇〇万円を第九期分の益金として、それぞれ確定申告したことは認め、その余の事実は否認する。同(ニ)の主張は争う。

(3) 同項(3)の主張は争う。

(三) 原告の反論第(三)項の主張は争う。

(第二三号事件)

(一) 原告の反論第(一)項(1)の認否は、本案前の答弁の理由に対する原告の反論に対する認否2の(二)と同じである。同(2)の主張は争う。

(二) 原告の反論第(二)項の主張は争う。

2  被告審判所長の反論

(第二三号事件)

(一) 五一郎の来署について

(1) 五一郎が昭和五一年一〇月三〇日に社税務署を訪れ、槇本統括官に面接したのは、本件第二次処分の所得計算の内容を知るためであった。

(2) また、五一郎は、右来署の際に槇本統括官に対し、異議申立書用紙の交付を請求していない。

(3) このように、不服申立ての手続に関しては五一郎から何らの質問もなかったので、槇本統括官は、同人に右手続の説明をしていない。従って、同統括官が、不服申立ての説明をしなかったことについては、何ら責められるべき事由はない。

(二) 本件教示について

(1) 槇本統括官は、本件第二次処分の内容に関する五一郎の質問に対し、第七期分の更正処分の取消しによって、本件第一次処分において引当金として計上していた未納事業税を引当金とする必要がなくなったことから、本件第二次処分において、右金額を自動的に加算したにすぎない旨の説明をしたが、右説明は、あくまでも同処分の所得計算の内容に関するものであって、これに対する不服申立ての手続についてではない。そして、前述のとおり、同統括官は、この点について何ら説明をしていない。

なお、同統括官が、右所得計算の内容についての説明の際、異議申立てをしても意味がない旨を述べたのは、所得計算の内容が自動的で明白なものであるという趣旨にすぎず、不服申立ての手続についてその要否を述べたのではない。

(2) このように、本件では、五一郎において所得計算の内容に関する説明を誤解したうえ、税務処理を委任していた西尾税理士及び本件訴訟の原告訴訟代理人である弁護士らから申立期間内に異議申立ての手続をしておくよう指示されていたにもかかわらず、これらの専門家と相談することもなくこれを放置し、結局、異議申立ての法定期間を待過してしまったのであるから、右期間不遵守による不利益は、当然に原告に帰するものというべきである。

(三) よって、本件裁決の判断に何ら誤りがないから、これを違法とする原告の本訴請求は理由がない。

九  被告審判所長の反論に対する認否

争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一第二八号事件について

一  請求原因第1項の事実(原告について及び本件各処分の存在)は、当事者間に争いがない。

二  主位的請求について

1  原告は、第八期分の法人税についての更正処分等(本件第一次処分)と合わせて再更正処分等(本件第二次処分)の取消しを求めている。

ところで、申告に係る税額につき更正処分がされたのち、いわゆる増額再更正処分がされた場合、右再更正処分は、それによって増加した税額に係る部分についてのみ法的効果を及ぼすものである(通則法二九条一項)が、これを全体的にみれば、税務署長が税額全体についての最終的な認識、判断を表示したものと解すべきである。

このように考えるならば、一たん増額再更正処分がされれば、当初の更正処分は、もはや独立の処分として存続させる意義がなくなるから、これによって同処分の取消しを求める訴えの利益は失われ、納税者は、専ら増額再更正処分の取消しを訴求することをもって足りるものと解すべきである(最高裁判所昭和五五年一一月二〇日第一小法廷判決、最高裁判所裁判集民事第一三一号一三五頁参照)。

2  よって、本件訴えのうち、本件第一次処分の取消しを求める本件主位的請求は、不適法である。

三  予備的請求について

(本案前の主張について)

1 原告が本件第二次処分のされたことを知ったのが昭和五一年九月一日であること、原告が同処分の取消しを求める本件予備的請求をしたのが昭和五二年一月二二日であること及び原告は、右請求をした当時、本件第二次処分に対して異議申立てその他の不服申立てをしていなかったことの各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

2 本件予備的請求の適否

(一) 出訴期間について

(1) ところで、被告税務署長は、本件予備的請求は、行訴法一四条一項所定の出訴期間を経過したのちに提起されたものであるから、不適法である旨主張する。そして、前記事実によれば、右請求が同条項所定の出訴期間を経過したのちに提起されたものであることは、明らかである。

これに対し、原告は、出訴期間を遵守することができなかったことにつき、同法一四条一、二項、七条、民訴法一五九条一項所定の責に帰すべからざる事由が認められる旨主張するので、この点について検討する。

(2) 成立に争いのない丙第一号証及び第二号証、証人西尾茂己の証言(以下、「西尾証言」という。)により真正に成立したものと認められる甲第二一号証の一、二(但し、同号証の二の官署作成部分の成立は争いがない。)、同証言、証人多田芳郎の証言により真正に成立したものと認められる丙第四号証、証人槇本哲夫の証言(但し、後記信用しない部分を除く。)、原告代表者尋問の結果(第一回)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(イ) 原告は、昭和五一年九月一日に本件第二次処分の通知書の送達を受けた(この事実は、当事者間に争いがない。)

(ロ) ところで、原告は、右時点では既に本件第一次処分に対する異議決定及び審査裁決を受けており、同年一〇月二九日には本件主位的請求を当庁に提訴していた(以上の事実は、当事者間に争いがない。)が、五一郎は、同月三〇日、原告訴訟代理人から西尾税理士を介して本件第二次処分についても念のために異議申立てをしておくようにとの指示、連絡を受けたので、同日中に同処分に対する異議申立てをするため、社税務署を訪れた(五一郎が同月三〇日に社税務署を訪れたことは、当事者間に争いがない。)。

(ハ) こうして、五一郎は、槇本統括官に面会し、本件第二次処分に対し異議申立てをしたい旨を述べるとともに、同処分の内容について説明を求めたところ、同統括官は、同処分は、第七期分の更正処分が裁決によって取消されたことに伴い、本件更正処分において引当金として損金に計上されていた第七期分の未納事業税が所得の計算上、自動的に加算されたものであり、内容的には何ら変更がないこと及びそのために、改めて本件第二次処分に対して異議申立てをしても無意味であるとの趣旨の説明(本件教示)をした。

なお、同統括官は、増額再更正処分により当初更正処分が消滅するというようなことは知らなかったため、前記のとおり、本件第二次処分に対して異議申立ての意向を示していた五一郎に対し、右趣旨の説明をしたものである。

(ニ) 槇本統括官の右説明を聞いた五一郎は、本件第二次処分に対しては、異議申立てをする必要がないと考えて、異議申立てをしないままで帰り、結局、原告は、法定の不服申立期間内に異議申立てをしなかった(原告が異議申立てをしなかったことは、当事者間に争いがない。)。

(ホ) ところが、被告税務署長は、本件第一回口頭弁論期日(昭和五二年一月一七日)において、「本件第二次処分がされた以上、同第一次処分は消滅し、取消しを求める対象を欠くに至ったから、本件訴えは不適法である。」旨の答弁書を提出し、原告訴訟代理人は同日これを受領した(以上の事実は、当裁判所に顕著である。)。そこで、原告は、同月二四日に本件第二次処分の取消しを求める本件予備的請求を追加した(以上の事実は、当事者間に争いがない。)。

以上の事実が認められ、証人多田芳郎の証言により真正に成立したものと認められる丙第三号証の記載及び槇本証言中右認定に反する部分は、前記の各証拠に照らして採用することができず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(3) 右認定事実によれば、槇本統括官は、増額再更正処分がされたときの当初更正処分及びこれに対する抗告訴訟の帰すうについて誤解し、その誤解したところに基づいて五一郎に対し、本件教示をしたものであり、また、教示された内容も、本件において本件再更正処分に対する争訟ができないものと解する余地のあるものであったから、本件教示が不適切であったことは明らかである。

なお、被告税務署長は、本件再更正処分については、書面による不服申立ての教示がされていることを理由に、原告は本件教示の有無にかかわらず、同処分に対する不服申立ての手続を行い得たはずである旨主張し、成立に争いのない乙第五号証及び弁論の全趣旨によれば、原告に送達された通知書には、別表(四)記載の不動文字が記載されていたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

しかしながら、本件では五一郎の質問に対する回答という形で同人の面前で本件教示が行われたこと及び槇本統括官の社税務署における地位を考慮するならば、原告が前記不動文字の記載にかかわらず、本件教示に従ったことには、無理からぬ点があるから、右記載があったことをもって出訴期間の不遵守を原告の責に帰すことはできないというべきである。

このように、原告が本件再更正処分があったのち、所定の出訴期間内に同処分に対する不服申立て及び取消訴訟をしなかったのは、まさに、前記認定の槇本統括官の不適切な本件教示に基づくものであるから、本件では、民訴法一五九条一項所定の責に帰すべからざる事由が存在したものというべきである。

(4) ところで、訴訟当事者がその責に帰すべからざる事由によって不変期間を遵守することができなかった場合には、右事由が止んだのち一週間以内に当該訴訟行為を追完することができるものとされている(民訴法一五九条一項)。そして、本件では、前述のとおり、原告は、本件教示によって本件第二次処分に対する争訟をする必要がないものと考えていたのであるから、被告から本件第一次処分の取消しを求める訴え(本件主位的請求)が不適法であるとの答弁書を受領した時点ではじめて同第二次処分に対する争訟手続の必要を知り得たものと解すべきであるところ、前記認定事実によれば、昭和五二年一月一七日(本件第一回口頭弁論期日)の時点において、不変期間を遵守することのできない事由が止んだものというべきであり、原告が本件予備的請求を追加したのが同月二四日であることは、前述のとおりである。

よって、本件では、訴えの提起について追完が行われたものと認められる。

(5) 従って、原告の本件予備的請求については、出訴期間の遵守があったものと解すべきであるから、被告税務署長の前記主張は理由がない。

(二) 不服申立て前置について

(1) 次に、被告税務署長は、本件予備的請求は通則法一一五条一項所定の不服申立て前置に違反するから不適法である旨主張する。そして、前記認定事実によれば、右請求が異議申立てその他の不服申立てを経ずに提起されたものであることは、明らかである。

(2) ところで、通則法は、国税に関する法律に基づく処分の取消しを求める訴えについて、これらの処分に対する不服申立てができる場合には、原則として、これを先に経たうえでなければ、右訴えを提起できないという不服申立て前置主義を定め(同法一一五条一項)る一方、一定の理由があるときには、この原則が適用されないとしている(同項但し書)ところ、原告は、本件予備的請求が不服申立てを経ていないことにつき、同法一一五条一項三号の「正当な理由」がある旨主張する。

そこで、この点について検討するのに、前述のとおり、本件再更正処分と同更正処分とは、別個独立の処分ではあるものの、その差異は、単に前年度分の更正処分が審査裁決によって取り消されたことに基づき、従前引当金とされていた未納事業税額分が当期の益金に算入されるようになった点にあるだけで、その余の課税標準は同一であり、また、賦課決定処分については同額であるから、本件第一次処分と同第二次処分とは、その実質においては同一の処分であり、他方、前記当事者間に争いのない事実(請求原因第1項)によれば、本件第一次処分については、異議申立て及び審査請求の不服申立てによって、その不服審査が尽されていることが明らかであるから、このような場合には、本件第二次処分について更に改めて不服申立てを経由させる必要性はないものといわなければならない。

(3) よって、原告が本件第二次処分についての不服申立てを経由せずに本件予備的請求を提起したことについては、通則法所定の正当な理由があるものと認めるのが相当であり、被告税務署長の前記主張は理由がない。

(三) 以上のとおりであるから、本件予備的請求が不適法であるとする被告税務署長の本案前の主張は、いずれも理由がない。

(本案について)

そこで、次に本件第二次処分の適否について検討することとする。

1 本件再更正処分について

(一) 原告がその第八期において五万五二九一円の欠損を生じた旨の確定申告をしたこと並びに右申告における原告の収入及び経費の額は、後記(二)ないし(五)の点を除き、当事者間に争いがない。

(二) 収入手数料等について

原告は、以下の収入手数料は存在しない旨主張するので、この点について検討する。

(1) 仲介手数料

(イ) 成立に争いのない甲第一五ないし第一八号証、乙第八号証(但し、書込み部分を除く。)、第一一号証、第一三号証、第一八号証、第三〇ないし第三二号証(第一三及び第三〇号証は、原本の存在も争いがない。)原告作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三四号証、証人松浦芳助の証言(以下、「松浦証言」という。但し、後記信用しない部分を除く。)、原告代表者尋問の結果(第二、第三回。但し、後記信用しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

<1> 原告は、売主坂下と買主岐阜プラスチックとの間で昭和四八年四月二三日に締結された本件山林の売買契約につき、坂下の義兄にあたる松浦とともに岐阜市の岐阜プラスチック本社に赴いて、契約書(乙第三四号証)の作成に立ち会い、売主及び買主とともにこれに記名押印をしている。

<2> 松浦は五一郎の友人で、原告の株主であるとともに取締役にも就任しているものであるが、本件山林については、買受けの当初から関与し、買受け資金を坂下が出したので同人名義になってはいるものの、その管理は松浦において行っていたので、同人は、その権利の半分程度は自己に属するものと考え、本件山林の売買代金の半分程度が自己に分配されることを期待して、同人の主導のもとに本件山林の売却が決められた。

そして、同人は、売買契約成立後の同月二七日、坂下から神戸銀行(現在は太陽神戸銀行)小野支店の同人名義の普通預金口座振込みにより二八二六万円を受領したが、同人は、このうちから五〇〇万円を原告に交付した。そして、このうち三〇〇万円は小野市農協小野支所の原告名義の当座預金口座に同月二八日付けで入金され、残りの二〇〇万円は同年五月七日に三木信金小野支店の五一郎名義の普通預金口座に入金された(右の各預金口座入金の事実は、当事者間に争いがない。)。

<3> 他方、原告は、その真意がどこにあるかの点は別として、同年四月二六日付けで坂下あての五〇〇万円の領収証(乙第八号証、但し、欄外の書込み部分は除く。)を作成して、松浦に交付した。

<4> 原告は、昭和四八年四月二八日、前記小野市農協小野支所の当座預金口座から二六四万二四八五円を引き出し、うち二五八万二一〇一円を右農協大部支所(当時は大部農協)の松浦名義の借入金の返済に充てているが、松浦自身は、右借入金は自己が借り受けたものとは考えておらず、実質上は原告の借入金であるとの認識を有していた。

<5> そして、原告は、昭和四五年七月の増資の際に松浦から三〇〇万円を借り入れた旨の松浦宛の借用証の写し(乙第三〇号証)及び同年八月一日に増資をした際に小野市農協大部支所(同年当時大部農協)から三〇〇万円を借り入れた旨の昭和五〇年二月八日付けの顛末書(乙第三一号証)を被告税務署長に提出している(もっとも、その後原告は、この顛末書の内容を取り消す旨の書面(乙第三二号証)を同被告に提出している。)。更に、原告の昭和四五年三月一日から昭和四六年二月二八日までの事業年度の法人税確定申告書にも右支所に対する三〇〇万円の借入金の記載があり、原告の金銭出納簿には、右支所に対する支払利息の記載がある。

<6> 原告は、小野市農協小野支所(昭和四五年当時小野農協)とは取引があったが、前記松浦名義の借入れがされた同農協大部支所とは、地域外のため正規の取引はなかった。

<7> 原告の作成した前記坂下宛の五〇〇万円の領収証はのちに坂下の手に渡り、同人は、自己の所得申告に際し、右領収証に基づいて原告に対する支払手数料五〇〇万円を経費として控除している。

以上のような事実が認められ、前掲乙第三二号証及び原告代表者尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第五八号証の各記載並びに松浦証言及び原告代表者尋問の結果(第二、第三回)中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして採用することができず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(ロ) 右認定事実によれば、原告は、本件山林の売買に不動産仲介業者として関与し、売主である坂下の受け取った売買代金の中から五〇〇万円を受領して、この一部を原告自身の借入金の返済にあてていることが認められるから、右五〇〇万円の性格は、原告が本件山林の売買について坂下から受領した仲介料とみるべきである。

(ハ) 従って、右五〇〇万円は、原告の収入金額に加算されるべきである。

(2) 仮受金

(イ) 原告が昭和四八年八月二〇日に幸栄産業から一〇〇〇万円(額面五〇〇万円の約束手形二通)を受領したこと及び第八期の法人税確定申告に際し、このうち五〇〇万円を受取手数料として益金に計上したものの、残りの五〇〇万円を仮受金として経理し、益金に計上しなかったことは、当事者間に争いがない。

(ロ) 成立に争いのない甲第八号証、第二三ないし第二七号証、第二九、第三〇号証、第三九、第四〇号証、第四一号証の一ないし四、第四二、第四三号証、第五三号証、乙第九号証の二、第一〇号証、第二九号証の四及び第三三号証、証人辻倉幸三の証言により真正に成立したものと認められる乙第二〇ないし第二三号証及び第三五号証、同証言、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる乙第九号証の一、第一六号証及び第二九号証の二、原告代表者尋問の結果(第二、第三回。但し、後記信用しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

<1> 原告は、昭和四五年春ころから、本件宅地造成事業を計画し、同年八月ころには、事業予定地内の土地所有者である田中らとの間で土地の売買契約を締結し(甲第二四号証及び第二五号証は、右売買契約についての公正証書正本である。)同人らに手付金を支払うなどして、開発行為についての同意を得たうえ、同年一一月一〇日付けで宅地造成事業の施行について、自己を事業主とする宅造法四条に基づく兵庫県知事の認可を受けた(原告がそのような売買契約をしたこと及び兵庫県知事の認可を受けたことは、当事者間に争いがない。)。

ところが、原告は、昭和四六年春ころには、資金繰りの都合で本件宅地造成事業を継続していくことが困難となったが、前述のとおり、既に田中らに手付金を支払っており、そのほかにも同事業の実施のために資金を投下していたので、万一同事業を中止せざるを得ないような事態に立ち至った場合には、多大の損失を被ることになった。

そこで、五一郎は、友人の訴外宮本隆(以下、「宮本」という。)が代表者をしていた幸栄産業において本件宅地造成事業を引継いでくれるよう、宮本に対し、再三にわたって懇請したので、同人もこれを了承し、その結果、幸栄産業は、原告から事業施行地域内の土地の転売を受け、原告が投下した開発経費に対しても相当の補償をして(原告は、幸栄産業から一七五七万三五〇〇円の開発経費を受領した旨自陳している。)、本件宅地造成事業を引継ぎ、同社が実質上の事業主体となって、同事業を実施することとした(右引継ぎが行われたことは、当事者間に争いがない。)。

<2> ところで、宅造法によれば、同法四条所定の事業の認可を受けたのちの認可の承継は、当該事業主について相続又は合併があった場合に限定されている(同法一一条一項)ため、本件のように事業主の地位が承継された場合でも、同法上、認可名義人の変更を行うことはできないが、実際上はこのような事業の承継は広く行われており、行政当局もこうした取扱いを容認していた。

しかし、前記のように宅造法上認可名義の変更ができないため、諸官庁への届出は認可を受けた事業主の名義で行う必要があり、このため、原告と幸栄産業は、前記承継に際し、承継後も諸官庁への届出は原告名義で行うことを合意し、諸官庁への届出、水利権者との交渉等は原告名義で行っていたが、右原告名義の使用について、幸栄産業が原告に対して報酬を支払う旨の約束はなく、後記工事完了届への押印までは、これについて金銭が授受されたことはなかった。

<3> このようにして本件事業を承継した幸栄産業は、昭和四八年に同事業を完成させたが、同法一二条一項所定の工事完了届は、認可を受けた当初の事業主である原告名義で行う必要があったので、原告に対し、工事完了届に押印してくれるよう依頼したところ、原告はこれを拒み、押印と引替えに金員の支払いを要求した。そこで、幸栄産業は、事業名義人である原告の印がなくても工事完了届を提出できる方法はないかと研究したが、前述した宅造法の規定上それが不可能であること及び右完了届を提出して工事完了について検査済証の交付を受け、その公告を経なければ、住宅を建築することができないこと(同法一二条三項、一三条)が判明した。

このため、幸栄産業は、不本意ながら、工事完了届に原告の押印を受ければ、一〇〇〇万円を支払う旨を約束し、同年八月二〇日ころ、右約定に基づいて原告に対し、額面五〇〇万円の約束手形二通を交付し、これと引替えに工事完了届に原告の押印を得た。そして、その後、幸栄産業は、右工事完了届を兵庫県知事に提出し、同知事は、これに基づいて本件宅地造成事業の工事完了検査を行い、昭和四八年一〇月四日付けで原告を事業主とする検査済証(乙第一〇号証)を交付し、幸栄産業は、造成した宅地の分譲を開始した(検査済証の交付があったことは、当事者間に争いがない。)。

<4> 本件宅地造成事業については、宅造法の規定により小野市に移管されるべき公共施設の移管時期は、小野市との協議により造成宅地の三五パーセントに住宅が建設されたときとされているので、原告の第八期中においては、右移管は未了であった。そして右移管に際しても、原告名義を使用する必要があるので、前記一〇〇〇万円の支払いに際しては、原告が右移管の関係書類に押印すべきことが予定されていたが、移管までの公共施設の管理は、実体上の事業主である幸栄産業が自己の負担において行うべきものであることが、当然のこととして了解されていた。

以上のような事実が認められ、前掲甲第五八号証、成立に争いのない甲第六三号及び乙第二九号証の三、四の各記載、西尾証言並びに原告代表者尋問の結果(第二、第三回)中右認定に反する部分は、前掲他の証拠に照らして採用することができず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(ハ) 右認定事実によれば、原告が幸栄産業から受領した一〇〇〇万円は、原告が幸栄産業からいわば押印料として受領したものであるとみるべきであり、仮に、原告が本件宅地造成事業の認可を得たこと及び同事業の工事完成に至るまでの原告の協力に対する報酬が含まれているとしても、それはすでに提供された役務に対するものであると認められるから、右受領の日に原告の収入として確定したものというべきである。

(ニ) なお、原告は、宅造法上の事業名義人としての原告の公法上の義務は公共施設の引渡しまで残存しているから、一〇〇〇万円のうち五〇〇万円を仮受金計上したのは原則三Bに基づく適切な経理であり、これを認めなかった本件再更正処分は、違法である旨主張する。

しかし、前記認定事実によれば、右義務については、原告と幸栄産業間において、幸栄産業が自己の負担で履行すべきものとされており、残存している原告の役務は経費を必要としない名義の貸与又は押印のみであるから、本件については、同原則を適用する余地はなく、仮に、前記公法上の義務に基づき、原告に何らかの金銭の支出の必要が生ずることがあるとしても、それは、その支出が具体的に確定した日の属する事業年度の損金の額に計上すべきものである。

よって、原告の右主張は理由がない。

(ホ) 従って、原告が幸栄産業から受領した一〇〇〇万円は、全額第八期分の所得に計上されるべきである。

(3) 以上のとおりであるから、原告の第八期分の収入手数料等については、更に一〇〇〇万円が加算されるべきである。

(三) 利息収入について

成立に争いのない乙第一五号証及び原告代表者尋問の結果(第二回)によれば、原告は、第八期において一五万七〇五〇円の利息収入を得たことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

よって、右利息収入一五万七〇五〇円は、原告の第八期分の所得に加算されるべきである。

(四) 役員賞与について

(1) 原告の代表者である五一郎の定期の給与が月額一〇万円であることは、当事者間に争いがない。

(2) そして、原本の存在及び成立について争いのない乙第一四号証によれば、原告は、五一郎に対し、昭和四八年九月三〇日に二〇万円、同年一二月三〇日に三〇万円をそれぞれ支給したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(3) 以上の事実によれば、原告の五一郎に対する同年九月及び一二月の各支給額のうち、それぞれ定期の給与額一〇万円を超える一〇万円及び二〇万円は、いずれも同人に対して臨時的に支払われる給与であるから、法人税法三五条四項、一項に規定する内国法人が役員に対して支給する賞与に該当する。

(4) よって、右合計金額である三〇万円は、原告の損金に算入されない。

(五) 租税公課

被告の主張第2項(一)の(4)(自動車税二万一〇〇〇円の損金算入)の事実は、当事者間に争いがない。

(六) 本件再更正処分の適法性について

そうすると、原告の第八期分の課税所得金額は、前記(二)ないし(四)の合計金額一〇四五万七〇五〇円から右(五)の租税公課二万一〇〇〇円及び(一)の欠損額五万五二九一円を控除した一〇三八万〇七五九円となるが、これは本件再更正処分における原告の同年分の課税所得金額一〇三三万五一四〇円を上回るものである。

よって、右一〇三八万〇七五九円の範囲内で課税所得を認めた本件再更正処分は適法である。

2 本件再更正処分にかかる重加算税賦課決定処分について

(一) 原告がその帳簿に本件山林の売買についての五〇〇万円の仲介手数料の受領を記載せず、また、右五〇〇万円を申告しなかったことは、いずれも当事者間に争いがない。そして、この事実に前記認定の事実関係を合わせ考えれば、原告は、本件山林の売買に関し、坂下から五〇〇万円の仲介手数料を受領したにもかかわらず、これに関し、課税標準等の計算の基礎となる事実を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出したことが明らかである。

(二) そして、原告が五〇〇万円の仲介手数料を除外して確定申告をしたため、被告税務署長が通則法六八条一項に基づいて、右五〇〇万円を課税の対象となる所得とする重加算税賦課決定処分をしたことは、弁論の全趣旨により明らかである。

(三) よって、右重加算税賦課決定処分は適法である。

3 本件再更正処分にかかる過少申告加算税賦課決定処分について

(一) 前述のとおり、原告の第八期の所得金額は一〇三八万〇七五九円であるから、原告は、確定申告に際し、右金額による法人税の確定申告をしなければならなかったものである。

(二) ところで、原告が右金額による法人税の確定申告をしなかったため、被告税務署長が通則法六五条一項に基づいて、本件再更正処分にかかる所得金額一〇一二万九一四〇円から前記五〇〇万円の仲介手数料を控除した五一二万九一四〇円を課税の対象となる所得とする過少申告加算税賦課決定処分をしたことは、弁論の全趣旨により明らかである。

(三) そして、原告が一〇三八万〇七五九円の金額について確定申告をしなかったことについて、同法六五条二項但し書に規定する「正当な理由」の存在を認めるに足りる証拠はない。

(四) よって、右過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

4 以上のとおりであるから、本件第二次処分は適法であり、これを違法とする原告の本件予備的請求は、いずれも理由がない。

第二第二三号事件について

一  請求原因第1項の事実(本件裁決の存在)は、当事者間に争いがない。

二  本件訴えの適否について

1  本件訴えは、本件第二次処分に対する被告審判所長の審査裁決の取消しを求めるものである。

2  しかしながら、前述のとおり、原告が本件第二次処分の取消しを求める第二八号事件予備的請求について通則法一一五条一項三号の「正当な理由」が認められ、同処分については、不服申立てを経ずに直ちに取消訴訟を提起することが適法であり、同請求についての実体審理が可能である以上、同処分に対する審査裁決である本件裁決の取消しを求める本件訴えは、訴えの利益を欠くに至ったものというべきである。

3  よって、本件訴えは、不適法である。

第三結論

以上のとおり、原告の第二八号事件の主位的請求及び第二三号事件の各訴えは、いずれも不適法であるからこれを却下することとし、第二八号事件の予備的請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上博巳 裁判官笠井昇及び同田中敦は、いずれも転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 村上博巳)

別表(一)

<省略>

(△はマイナスを表わす)

別表(二)

<1> 当初五〇年二月二八日付の社税務署長の更正決定に対して未だ係争中であり、当初裁決において原処分に対して一部取消が行なわれましたが、現在なお係争中であります。

<2> なお、四七年三月一日から四八年二月二八日までの年度分の裁決による取消により、その年度分の未納事業税二〇六〇〇〇円が会計処理上自動的に四八年三月一日から四九年二月二八日までの年度分に加えられ、その法人税額五四七〇〇円が増加しました。この更正処分に対して、改めて異議申立をするべく、原処分庁社税務署の槇本統括官にたずねたところ、上記の理由により、異議申立をする必要がないとの行政指導があったので異議申立をしなかった。

別表(三)

来署した小野開発株式会社の社長に対し、本件再更正処分は、当然の処分であること。すなわち、当初更正処分は、裁決により、四八年二月期分は全部取消し、四九年二月期分は棄却となった。そこで、前事業年度分の未納事業税額を引当損として後事業年度の所得金額より減算していたのが、前事業年度の取消しの裁決により自動的に消滅したことによるものである趣旨の説明をしたが、請求人の主張するように異議申立てをする必要がないとは、いったことがない。

別表(四)

この処分に不服があるときは、この通知を受けた日の翌日から起算して二月以内に社税務署長に対して異議申立て又は国税不服審判所長(提出先は、大阪国税不服審判所長首席国税審判官)に対して審査請求をすることができます。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例